京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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留学帰国報告 ブリュッセル自由大学

京都大学放射線治療科 松尾幸憲

 2014年1月より1年間、ブリュッセル自由大学・病院(Vrije Universiteit Brussel [VUB]/ Universitair ziekenhuis Brussel [UZB], ベルギー)に留学しましたので報告いたします。

 UZB留学のきっかけになったのはVEROです。ご存じの通りVERO(MHI-TM2000)は京都大学、先端医療センターおよび三菱重工の産学連携のもとに開発された国産の放射線治療装置ですが、治療計画装置や照合装置などソフト面はBrainLAB(ドイツ)が開発を担っています。UZBはBrainLABとのつながりが深く、VEROを早期に導入し2012年には動体追尾放射線治療を開始しました(京都大学での追尾治療開始は2011年9月)。日本とベルギーでVEROの研究は個別に行われていましたが、お互いに成果を共有し開発を加速させたいとの思いが一致。京大とUZBの間で共同研究を立ち上げるべく、私がブリュッセルに留学することとなりました。

 UZBではDirk Verellen教授の指導を受けました。Verellen先生は欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)の理事を務められ、医学物理ではとても高名な先生です。研究内容として当初はUZBに新規導入される4次元CTの立ち上げ・評価を行う課題が与えられましたが、なかなか稼働開始とならず、この課題は没となります。次に、京大とUZBで蓄積されていた動体追尾放射線治療の追尾誤差データを比較検討することを提案して、研究を開始しました。以前から誤差データの扱い、特に複数因子を考慮した分散の評価方法を考えたいと思っていましたので、留学でゆったりと時間を与えられたのは非常によい機会でした。統計の教科書を読みながらデータを解析する日々で、同僚の医師には奇異に映っていたかもしれません。追尾誤差を患者・治療日・相関モデルの3因子に分けて評価する方法を確立(従来は患者1因子のみ)し、”A multi-centre analysis of treatment procedures and error components in dynamic tumour tracking radiotherapy”というタイトルでRadiotherapy and Oncology誌に投稿、帰国後の5月に無事採択される幸運を得ました。また二国間共同のグラント申請を行い、今後の共同研究継続につなげることができております。

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Verellen教授と

 ところで「ブリュッセル自由大学」についてインターネットで調べると、Vrije Universiteit Brussel(VUB, オランダ語)とUniversité Libre de Bruxelles(ULB, フランス語)の2つがあることに気づかれると思います。これはベルギーの特殊な国内事情を端的に反映したもので、オランダ語話者とフランス語話者間の言語戦争とも言われる対立の結果です。もとは1834年に1つの大学として設立されましたが、1970年にVUBとULBの2つに分裂しました。メインキャンパスを歩いてみると北側がVUB、南側がULBであることに気づきます。ちょうどベルギー国内が北部のフランダース地方(オランダ語圏)、南部のワロン地方(フランス語圏)に別れることに相似します。留学中の2014年5月には総選挙が行われ、フランダース地方の分離独立を訴えた新フランデレン同盟が第一党となっています。英国からのスコットランド独立やスペインからのカタロニア独立運動が盛んになっていた時期であり、ベルギーも分裂かと心配されました。ところが、新首相は第一党ではなく第三党から選出され、フランダースとワロン両地域のバランスを取った組閣がなされたことで、分裂は回避されました。このあたりのバランス感覚は、両極端に走りやすい日本人にはないもののように思いました。

 ベルギーと言えば有名なのがビールです。日本ではアルコール度数5%前後のラガービールが主流ですが、ベルギーでは多種多様なビールがあります。大きく分けて11の分類、アルコール度数は3%から12%、銘柄は1000種を超えると言われます。ビールの祭りが各地で開かれ本当にビール好きの国民です。私も毎日いろいろなビールに挑戦しましたが1年間ではとても足りませんでした。
最後になりますが、このような貴重な機会を与えていただいた平岡教授に感謝するとともに、留学期間中に京大の臨床業務を担ってくださった同僚の先生方に心から感謝します。

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ベルギーの多彩なビール