京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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全身照射(TBI)

骨髄移植のための全身照射

はじめに

近年の急速な治療技術の進歩により、従来では治癒させることのできなかった白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍が治癒させることが可能となってきました。特に骨髄移植が有効な治療方法として期待され、また実際多くの患者さんに福音をもたらしています。骨髄移植とは、病んだ骨髄を健康な人からの正常な骨髄に置き換えることです。このためには病んだ骨髄の細胞を根絶し、正常な骨髄細胞を点滴して移植します。病んだ骨髄細胞を根絶やしにする方法には、抗がん剤や放射線を用います。放射線は殺細胞効果がきわめて高いので、病んだ骨髄の細胞を根絶するには適した治療方法ですが、それでも単独では不十分で抗がん剤と併用します。正常な骨髄は患者さんの体に合ったものを移植する必要があります。このために兄弟などの血縁者からいただく場合と、骨髄バンクを通じて非血縁者から骨髄をいただく場合があります。まれには患者本人の骨髄を用いる場合もありますが、これは適応が限られています。

実際の全身照射方法

実際の全身照射は朝1回、午後1回の1日2回の治療を3日連続で行います。副作用を防止する目的でゆっくりと照射しますので1回に約1時間かかります。照射方法は仰臥位(あおむき)で左右から照射する場合と、側臥位(横向き)で前後から照射する場合があります(写真)。通常は6回とも仰臥位で治療を行いますが、病気の状態によっては3回は仰臥位、3回は側臥位で行う場合もあります。病状によっては副作用を防止する目的で目や肺の前に鉛を置いて放射線を防御する場合もあります。また病気の種類によっては、全身照射の前の週に脾臓への放射線照射を行います。再生不良性貧血の場合は原則として全リンパ節への照射を1回で行います。具体的手順はおおむね以下の通りです

1. 適応があるか否かを決定

2. 日程の調整(1か月以上前)

  • 患者の状態
  • 骨髄提供者の日程(骨髄バンクの場合は最優先されます)
  • 病棟
  • 放射線科
  • 手術室

3. 放射線科医による診察と説明

4. シミュレーション(2ー3週間前)

  • 体位計測
  • CTおよび治療装置を用いたX線写真の撮影

5. 体厚補正、肺補正の厚み計算と作成、肺防御用鉛の作成

6. 肺防御用鉛の患者さんへの試着(1週間前)(肺防御用鉛を用いる場合)

7. 実際の治療

全身照射に伴う副作用

最近では放射線治療方法および副作用防御方法の進歩により副作用は軽度になっていますのであまり心配はいりませんが、参考までに可能性のある副作用を示します

全身照射の期間および終了後しばらく(急性期)の副作用

悪心、嘔吐、下痢、口の渇き、涙の減少、脱毛、肝障害
耳下腺炎:耳の下の一過性の疼痛と腫脹 鎮痛剤で様子を見る。

晩期の副作用

間質性肺炎、白内障、ホルモン障害、成長遅延、性腺障害、腎障害二次発がん

おわりに

全身照射は骨髄移植の術前処置としてきわめて有効な治療方法です。しかし、患者さんによりその適応や方法が異なります。私たちは患者さんに最も適した方法を用いて治療を行っていますので、主治医と放射線科医によく話を聞いて全身照射に臨んで下さい。