京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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研究活動 生物グループ

生物学的アプローチによる研究

固形腫瘍には、細胞増殖と血管新生の不均衡に起因する『低酸素領域』が存在します。腫瘍全体の悪性化を抑え、放射線治療等の効率を高めるためには、固形腫瘍内の低酸素がん細胞を効率よく攻撃する新たな手法が求められています1)。当研究室では、分子生物学、細胞生物学、放射線生物学、放射線腫瘍学に基づき、低酸素がん細胞を可視化(イメージング)し、治療する(ターゲティング)する手法を開発することを目指しています。

低酸素特異的融合タンパク質を用いたイメージング・ターゲティング研究

当研究室では、低酸素がん細胞に効率よく運ばれ、特異的に安定化する融合タンパク質を独自に開発しています。この融合タンパク質を用いて、低酸素領域の多い難治性がんの治療のためのタンパク製剤の開発2,3)や、イメージングプローブの開発4)を行っています。

Ⅱ 低酸素依存的プロモーターを用いた腫瘍内低酸素領域のイメージング・ターゲティング研究

低酸素により活性化される低酸素応答プロモーターの下流にルシフェラーゼ遺伝子を繋いだレポータープラズミドを構築し、これを安定に保持するヒト由来のがん細胞を樹立しています。マウスに移植されたがん細胞により形成された腫瘍内の低酸素領域を最新のin vivo イメージングシステム(IVIS200)を用いてリアルタイムで観察しています5,6)。また、低酸素応答プロモーターの制御下に治療用遺伝子を挿入した遺伝子治療用ベクターの開発を行っています7,8)。

Ⅲ 同所移植腫瘍モデルを用いた治療法の開発

転移がんで問題となる肺、脳の臓器微小環境がどのように血管新生や腫瘍細胞の増殖、浸潤等に影響するか調べるとともに、上記で開発したイメージング・ターゲッティング法を検証し、放射線治療の新たな可能性を見いだすためいくつかの移植モデルを構築し、様々な角度から治療のための研究を行っています9)。

Ⅳ 医工連携による腫瘍イメージングプローブの開発

“がんの形態だけでなく、がんの病態(転移能、治療抵抗性など)を可視化したい。” こういった医学のニーズに応えるため、工学研究科が保有する優れたシーズと技術を活かし、次世代型のイメージングプローブの開発を行っています10,11)。

代表的な文献
  1. Kizaka-Kondoh S et al. Tumor hypoxia: A target for selective cancer therapy. Cancer Sci. 94: 1021-1028. 2003.
  2. Harada H et al. Antitumor effect of TAT-oxygen-dependent degradation-caspase-3 fusion protein specifically stabilized and activated in hypoxic tumor cells. Cancer Res. 62: 2013-2018. 2002.
  3. Harada H et al. Significance of HIF-1-active cells in angiogenesis and radioresistance. Oncogene. 26:7508-7516. 2007.
  4. 近藤科江ら. 環境標的としての低酸素細胞の光イメージング. 実験医学. 25:2144-2150. 2007.
  5. Harada H et al. Optical imaging of tumor hypoxia and evaluation of efficacy of a hypoxia-targeting drug in living animal. Mol Imaging. 4: 182-193. 2005.
  6. Harada H et al. The combination of hypoxia-response enhancers and an oxygen-dependent proteolytic motif enables real-time imaging of absolute HIF-1 activity in tumor xenografts. Biochem Biophys Res Commun. 360: 791-796. 2007.
  7. Liu J et al. Adenovirus-mediated hypoxia-targeting cytosine deaminase gene therapy enhances radiotherapy in tumor xenografts. Br J Cancer. 96: 1871-1878. 2007.
  8. Ogura M et al. A tumor-specific gene therapy strategy targeting dysregulation of the VHL/HIF pathway in renal cell carcinomas. Cancer Sci. 96: 288-94. 2005.
  9. Zeng L et al. Hypoxia inducible factor-1 influences sensitivity to paclitaxel of human lung cancer cell lines under normoxic conditions. Cancer Sci. 98:1394-401. 2007.
  10. Tanabe K et al. Fluorescence Imaging of Hypoxia: One-Electron Reduction and Fluorescence Emission Characteristics of Indolequinone-Coumarin Conjugate. ChemBioChem. in press.
  11. Tanisaka H et al. Near-infrared fluorescent labeled peptosome for application to cancer imaging. Bioconjug Chem. 19:109-17. 2008.