生物・婦人科グループ 諏訪がDepartment of Oncology, University of Oxfordに研究留学中に手掛けた内容がNatureグループ誌の cell death and disease誌に採択されました。
生物・婦人科グループ 諏訪がDepartment of Oncology, University of Oxfordに研究留学中に手掛けた内容がNatureグループ誌の cell death and disease誌に採択されました。。
UPR-induced intracellular C5aR1 promotes adaptation to the hypoxic tumour microenvironment
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内容:
自然免疫の一つである補体は生体防御のために重要な役割を果たすが、腫瘍、特に腫瘍内微小環境(Tumour microenvironment, TME)では異常活性化をきたして腫瘍増殖や治療抵抗性を誘導する。
補体系で中心的な役割を担うC5a/C5aR1軸は、古典的な自然免疫機構として感染やアレルギー領域では広く研究されており、C5aR1阻害剤も自己免疫疾患の抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬として臨床試験が行われている。
本論文は、TMEにおける補体受容体C5aR1の調節異常の根底にある新たな機序を解明し、C5a-C5aR1軸の最も効果的な治療標的化に関連する重要な概念的進歩を提供する。メカニズムとしては、患者サンプル、マウスモデル、2Dおよび3Dのin vitroアッセイを組み合わせて、免疫抑制性TMEの特徴である低酸素が、C5a-C5aR1軸の調節異常を引き起こすことを示した。さらに、TMEの低酸素領域において、小胞体ストレス応答(Unfolded protein response, UPR)がC5aR1の転写を増加させることを示した。低酸素条件下でエンドサイトーシスが亢進すると、C5aR1の局在が細胞膜から細胞内空間へと切り替わり、その結果、C5aR1の細胞内プールが増加する。薬理学的および遺伝学的にC5aR1を阻害する実験を通して、低酸素誘導性C5aR1がオートファジーとアポトーシス制御を介してがん細胞死を抑制し、がん細胞の低酸素ストレス応答を媒介することを証明した。重要なことは、細胞透過性のC5aR1阻害剤として承認されているアバコパンを投与した場合に、細胞透過性の低い他のC5aR1阻害剤と比較して、腫瘍細胞の生存が最も顕著に抑制された。これは、腫瘍内微小環境におけるC5aR1局在のシフトは、細胞膜透過性に制限のある薬剤(現在臨床試験中のC5aR1抗体の使用を含む)を使用する治療戦略に注意を促すものである。今後は放射線治療とアバコパンの併用についてさらに検討を進めていきたいと考えている。