脳腫瘍
脳腫瘍とは
脳腫瘍とは頭蓋内の組織から発生する原発性脳腫瘍と、肺癌・乳癌などの他の部位のがんが頭蓋内に転移して生じる転移性脳腫瘍の2種類に大きく分けられます。
原発性脳腫瘍は、神経膠腫(グリオーマ)、髄膜腫、神経鞘腫(聴神経鞘腫、顔面神経鞘腫、三叉神経鞘腫など)、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、悪性リンパ腫、胚細胞腫、髄芽腫、血管芽腫など様々な種類の腫瘍を含みます。転移性脳腫瘍は肺癌、乳癌、腎細胞癌、消化管癌などからの転移が多いとされております。脳は生命維持や運動・感覚などの機能に重要な役割を果たしており、脳腫瘍の治療についてはその必要性や手段について慎重に検討を行う必要があります。それぞれの脳腫瘍の特性、発生部位、大きさ、経過、患者様の年齢や症状などを踏まえたうえで、一般的には手術、放射線治療、化学療法などが用いられることが多いですが、治療を行わず慎重に経過観察を行う選択もとられることもあります。
京都大学医学部付属病院ではがん診療部・脳腫瘍ユニットとして脳神経外科医・放射線治療医・小児科医が合同で脳腫瘍に対する診療を行っており、患者様ごとにどの治療法が最適となりえるか詳細に検討を行っております。(がん診療部・脳腫瘍ユニット ホームページ; https://www.cancer.kuhp.kyoto-u.ac.jp/?p=13)
当科では脳腫瘍に対する放射線治療として、一般的な外部放射線照射(局所照射、全脳照射、全脳全脊髄照射など)のほか、定位放射線照射、強度変調放射線治療 (Intensity modulated radiotherapy; IMRT) を行っております。
定位放射線照射については当科ホームページ上の別項目で紹介させていただいており、そちらをご参照いただければ幸いです(https://radiotherapy.kuhp.kyoto-u.ac.jp/?p=20)。
IMRT・VMATとは?
IMRTとは放射線の強度をコンピューター制御のもと精確に調整することにより、放射線を当てたい場所にはしっかりあてて、避けたい場所にはなるべく当たらないようメリハリをつける革新的な放射線治療です。脳腫瘍の場合、視神経・視交叉・眼球・水晶体・脳幹などの重要な臓器に放射線をあてすぎるとダメージが大きくなり、重篤な副作用が出現する可能性があります。IMRTを用いることにより、このような臓器への線量を抑えながら腫瘍に対してしっかりと放射線を当てることが可能となります。また先ほど述べた重要な臓器の他、正常の脳組織に対する放射線の線量もIMRTを用いることにより下げることが可能となり、長期予後が期待される脳腫瘍の場合、高次機能の維持や二次発がんの低下へつながる可能性が示唆されています。
また脳腫瘍が頭皮に近い場所に存在する際、放射線治療に伴い頭皮・毛根が照射され脱毛をきたす場合があります。従来の方法では頭皮への線量を低く抑えることができなかったため毛根へのダメージが大きくなり、照射した場所には二度と発毛を認めない永久脱毛となる場合がありました。そこでIMRTを用いることにより脳腫瘍への線量を同等に保ちつつ、頭皮への線量を低く抑えることが可能となり、個人差もありますが放射線治療後3か月~6か月後に再び発毛が認められるようになります。このように頭皮に近い脳腫瘍に対してIMRTを用いることにより頭髪を温存することが可能となりました。
近年では放射線治療の技術革新に伴い、回転しながらIMRTを行う回転型強度変調放射線治療 (Volumetric-modulated arc therapy; VMAT)が可能となっており、当院でも2009年より脳腫瘍に対するVMATを開始しております。回転しながら照射を行うため、従来のIMRTと比較して短時間で照射を終了することが可能となり、患者様への負担が軽減されます。
当院で行っている脳腫瘍に対するVMATに関して以下に一例をご紹介させていただきます。
新規治療装置 TrueBeamSTx
当院に2015年8月に導入された新規治療装置TrueBeam STx(Varian社)です。この治療装置を用いてVMATを実施することができます。
髄膜腫に対する放射線治療の一例
左側の図で表示している紫色の領域は、放射線治療が必要と判断された病変です。
紫色の内側に赤色の領域がありますが、さらなる腫瘍の制御をめざし、この赤色の領域により多くの放射線を投与することとなります。
右側の図は放射線がどこにどの程度照射されているかを示す線量分布図です。処方線量以上が照射されている領域をカラーで表示しております。VMATを用いることにより、このような複雑な形の病変に対しても、病変の形にあった線量分布を得られることが可能となり、正常脳組織や重要な臓器にはなるべく放射線があたらないようにすることができます。