京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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入局者の声

放射線治療医を目指して後期研修を選択してから(全文)

小倉 健吾

私は卒後一般臨床研修が始まって二年目の代になりますが、卒後臨床研修がなければ医学部六年生の時点で考えていた別の科に入っていたのだろうと思うと不思議な気分になります。その頃、放射線治療の分野は国家試験にも出題されず、診療場所が地下にあるせいか、あまり意識をしていませんでした。

卒後臨床研修が始まって約1年後には放射線治療科の存在を意識するようになりました。理由を後で振り返ると、将来の科の選択について改めて考える時間ができたからというのも大きいですが、実際に臨床の現場に立ち会うと、やはりがん患者が多いという実感(かつ高齢者が多い)、また様々な科を研修したせいか、横断的な内容の科に進みたいと思ったこと、さらに、これからは低侵襲治療でかつ個人技によらない安定した治療が大事なテーマになると思ったこと、などが挙げられます。同時に、放射線治療医は全然数が足りず、兎にも角にも切にマンパワーが必要な状況だと知り、また、絶え間ない精密機器の発達と共に医療技術も進歩するダイナミックな分野で、これから益々追風の状況だと思いました。一方で、研修医時代にすでに同じく放射線治療を目指す同僚が二人もいたことは大変恵まれており、大いに鼓舞され勇気を持ちました。初期研修二年目は母校の慶応義塾大学病院で研修を受けましたが、選択期間で放射線治療科を選択し、指導の先生方から大変親切にして頂いたのも更なる動機付けとなりました。様々な要因がありますが、初期研修二年目の中頃には放射線治療科で間違いないと確信しました。

先ほど選択期間で放射線治療科を選択したと申しましたが、実は残りの選択期間はすべて放射線診断科を選択し、結局のところ、期間選択はすべて放射線科にしたわけですが、「放射線科」について考えるきっかけになりました。気付かされたことは、放射線治療医と放射線診断医は同じ「放射線科」の管轄でやるには業務内容の種類や量を考えても難しいということです。放射線治療医の立場から考えると画像診断は間違いなく重要ではあるけれども、外科や内科にとって重要であるのと同等である、と思いました。また、放射線治療医はほとんど「がん治療医」でもあり、例えば抗がん剤の勉強も必要で、いくら画像診断が重要といえども放射線治療医の認定医/専門医制度も別個に考え直す必要があると思いました。後期研修の行き先を選択するに当たってはこれがポイントのひとつになりました。

突然、個人的な話になりますが、元々の生まれが京都であること、医学部に進学する前に京都大学の別学部に所属・中退していたこともあり、京大病院放射線治療科のホームページを見るまでには時間がかかりませんでした。そこで、3年目から早くも放射線治療科の研修ができる画期的なシステムがあるのに驚き、大変魅力的なものを感じました。大抵は放射線科に入ると、2年間は診断・治療をやるのがセオリーと聞いていましたが、放射線治療医は独自の研修システムが必要な時代に来ているという予想と、また、そのような真新しいカリキュラムが出来上がる場所で、先進的な息吹を感じてみたい思いで、研修先に選択させていただきました。

最後に、実際に放射線治療医の後期研修を始めてからの感想を少し述べたいと思います。

まずは、放射線治療医が病床を持つことについてですが、全国的な傾向としては、放射線治療医の外来業務、治療計画業務の負担増に伴い、病床は縮小傾向にあると伺っていましたが、病床を実際に持つことは、(現研修施設では特に食道がん、膵がんなど)直接患者さんの辿る経過を肌身で学べるという意味で重要だと思いました。これも研修施設を選択する際に重要視しました。一方で、やはり全身管理能力という意味では内科に劣らざるを得ないと思います。医者ならば科を問わず研鑽に励まなければ…という意見も多々あるでしょうし、少なくとも一年目の初期臨床施設のある先生にはそう叩き込まれた時期があり、いわゆる専門馬鹿的な純粋なOncologistの存在を強く否定されていたのが印象的でしたが、将来的にも放射線治療科が病棟を持ち続けることが、患者さん本人にとっても果たして幸福なことかどうか、検討課題ではあると思います。ただし、繰り返しにはなりますが、少なくとも初期経験・研修として一定期間は何らかの形で病棟を持つことは必須と思いました。

次に、長期のフォローアップ、晩期障害について思ったことです。晩期有害事象が生じた場合の対処方法の重要性を最近特に感じています。主科にならないことが多いせいか、いわゆる当て逃げ屋という痛い言葉を受けぬようにしたいです(あまり聞きたくはない言葉でした)。また、もし同部位に再発しても再照射は基本的に有り得ないような状況で、主科でもなく、放射線治療医としてできる対処方法も力及ばず、それでも自科でフォローをさせて頂く場合、医師(放射線治療医)の勉強・養成のため、そしてどういう晩期障害が起こるかという情報を集めることによって今後の医療にフィードバックするために診させて頂いているのだと意識的に思うようになりました。というのも、もし増悪しても放射線治療医自身が再度何かできることは少なく、他科に紹介し(晩期障害と判断し、きちんと紹介できる能力・責任を持つ必要はあるが)、晩期の有害事象だけにフォロー間隔もどうしても長くなり、何より患者さん自身が何故わざわざ受診しなければならないか分からないといってフォローが途絶えることもしばしば見受けられるからです。現研修施設では場合によっては10年など、非常に長期フォローされている患者さんもいらっしゃるため大変勉強になります。長期フォローを可能ならしめるには、患者さんとの良好な関係を築くことときちんとした実力をつけることがいかに重要かということに気づかされました。

また、上記の問題は、がん診療がひとつの科で診るということがもはや時代遅れということなのかとも思います。逆に主科がどこになるのかという問題が発生しますが、患者さんが各臓器の「がん」疾患単位で受診し、内科・外科・放射線科を含む各科が合同で診察するユニットがあれば、放射線治療科としても他科と情報を共有することが容易になると思いました。京大病院ではすでにがん診療ユニットがスタートしており、非常に有意義な研修ができると思います。
放射線治療科は放射線を照射する科であることは間違いないにしても、患者さんのマネージメント・フォローを含めていったい何をどこまでやる科なのか、境界線が少し分かりにくくなることを感じる今日この頃ですが、放射線治療自体はこれからも必要性が高まっているという認識は変わりませんし、よりよい放射線治療医像を持って研鑽していきたいと思っております。