京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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膵臓がんに世界初の動体追尾IMRTを開始

京都大学医学部附属病院は、2013年6月17日より膵臓がんに対するリアルタイムモニタリング下の動体追尾強度変調放射線治療(動体追尾IMRT)を開始した。同治療は呼吸により移動するがん病巣の位置をリアルタイムで評価(監視)しながら、がんの動きに合わせてピンポイント照射する動体追尾機能に、放射線治療における最新治療法の一つ「強度変調放射線治療(IMRT)」を融合した治療法であり、本治療の患者適用は世界初となる。

がん放射線治療成功の鍵は、体内のがん病巣へ十分な放射線を照射することと正常臓器への放射線量を低くすることの両立である。IMRTはこの線量集中性を実現した革新的な照射方法であり、前立腺がん、頭頸部がんなど数多くのがんの治療成績向上に貢献している。IMRTの問題は動きに弱いことであり、肺がん・膵臓がん等のがん病巣の位置が刻一刻と変化する部位については適用が困難であった。本課題を解決する動体追尾IMRTの開発に世界で初めて成功し、今回膵臓がんに対する動体追尾IMRTが実現した。

今回用いた放射線治療装置Vero4DRT(MHI-TM2000)は、京都大学、先端医療センター、三菱重工業株式会社の産学連携のもと開発されたシステムであり、2つの大きな特長を有する。(1) 放射線照射ヘッドの向きを変えることで、移動するがん病巣をリアルタイムで正確に狙うことができる。(2) 各種イメージング機器を装備し、腫瘍全体をリアルタイムでモニタリングする画像誘導放射線治療が可能。同装置は平成23年9月に肺がんに対するリアルタイムモニタリング下の追尾放射線治療を世界で初めて実現した。今回の膵臓がん治療はそのシステムを強度変調放射線治療に対応することで実現した。

治療された症例は、膵頭部に2.5 cm大のがんを有する60歳代の男性。6月17日から5回の追尾放射線治療が実施された。従来の治療法と比較して、がん病巣への放射線量を十分保ったまま、周囲正常臓器である胃への放射線量を約37%、十二指腸への放射線量を約20%低減可能であることが事前のシミュレーションで確認されており、放射線による消化管障害の低減と高い治療効果の両立が期待される。

厚生労働省は2012年4月の保険改定で放射線治療における呼吸性移動対策加算を新設し、動体追尾放射線治療はその高度技術として認められた。今後、本治療の普及が進むものと期待される。

 

尚、本治療は、総合科学技術会議により制度設計された最先端研究開発支援プログラム(日本学術振興会)の助成により研究開発されたものである。