京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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膵がん

膵がんの治療法にはどのようなものがありますか?

膵がんの治療法の三本柱は、手術・放射線治療・抗がん剤治療(化学療法)です。膵がんは、一般的に進行が早く完治が難しいと言われてきました。しかし、これらの3つの治療法をうまく組み合わせてそれぞれの利点を駆使することで(集学的治療)、膵がんの治療成績は確実に良くなりつつあります。 膵がんは、早期の段階から遠く離れた臓器に転移する頻度が高いといわれています(遠隔転移)。そのため、まずCT、FDG-PET、MRIなどを用いて、遠隔転移の有無を念入りにチェックします。遠隔転移が見つかった場合には(臨床病期IV期)、抗がん剤治療を行います。明らかな遠隔転移が無い場合には、手術または放射線治療を行います。ただし、中には検査では見つからないような小さな遠隔転移が存在することもあり、手術や放射線治療を行った場合でも、多くの場合は抗がん剤治療も併用します。放射線治療の場合には、抗がん剤治療を同時に併用することで(化学放射線療法)、より高い治療効果が得られることが分かっています。 膵臓は胃や十二指腸、小腸などの消化管、肝臓、胆管、腎臓などの重要な臓器に取り囲まれています。膵がんはこれらの臓器の中に浸み込むように増大するため、様々な症状を引き起こします。したがって、膵臓の腫瘍に対する治療を行なうことは、これらの症状を抑える意味でも重要なことです。遠隔転移が無い状態であれば、まずは手術によって安全かつ確実に腫瘍を取り除くことが可能かどうか詳細な検討を行います。しかし、肝臓や消化管に栄養や酸素を送り込むための重要な血管(腹腔動脈や上腸間膜動脈)に腫瘍が広く接する場合、あるいは腫瘍が血管を巻き込んでいる(動脈浸潤)場合(臨床病期III期)には、血管を傷つけることなく腫瘍を完全に取り除くことは非常に困難です。このような場合には、血管や臓器の機能、形態を温存したままでがん細胞のみを除去する方法として、化学放射線療法を行います。

膵がんは進行が早く、診断から治療方針決定までの迅速さが特に要求される病気です。当院では、2007年よりがん診療部 膵がんユニットにおける合同外来を設立し(毎週金曜日)、肝胆膵・移植外科、消化器内科、放射線治療科、がん薬物治療科、放射線診断科の専門家からなるチームで、診断から治療方針の決定までを行っています。

膵がんの化学放射線療法とはどのような治療でしょうか?

局所進行膵がん(遠隔転移は認めないが、腫瘍が膵臓を超えて周囲の臓器に浸潤)で、動脈浸潤のために腫瘍を完全に切除することが困難(切除不能)と診断された場合でも、放射線治療は安全に行うことができます。放射線治療により局所の進行を抑えることができれば、長期生存は不可能ではありません。

抗がん剤治療を同時に行うことで放射線治療の効果を高めることができ、さらに、目に見えない遠隔転移も抑えられる可能性があります。

当院では、化学療法剤である塩酸ゲムシタビン(2001年より膵がんに対して保険適応)を用いて、最適な治療プロトコールの開発をおこなってきました。

現在は、当院で施行した臨床試験(第 I 相試験、第II相試験、2001~2006年)の結果に基づき、下記のようなプロトコールで治療をおこなっています。

3週間の放射線治療(1日1回3.2グレイずつ、合計48グレイ)の期間中、ゲムシタビンを体表面積当たり1000mg、週1回(計3回)投与します。

個々の病状に応じて、化学放射線療法の前に化学療法を先行しておこなう場合もあります。

 

参考文献

  • Oya N, Shibuya K. et al Pancreatology, 6(1): 109-16, 2006
  • Shibuya K, et al, Am J Clin Oncol 34(2), 2011
放射線治療

前述のように、膵臓は胃や十二指腸、肝臓や、腎臓、脾臓などの重要な臓器に囲まれています。これらの臓器に放射線が多くあたってしまいますと、重大な副作用をひきおこしてしまうことがあります。副作用を最小限にするために、当院では、CTシミュレーターを用いて治療計画をおこない、4~5方向から3次元的に腫瘍を狙い撃ちしています。

赤い線で囲まれた範囲(※)が、血管を巻き込むように進展した腫瘍組織です。CT画像上で見える部分(※)と、その周囲で、臨床的に腫瘍の浸潤が疑われる領域に放射線をあてます。5方向から胃や腎臓、肝臓を避けるようにあてています(赤い色の濃い部分が放射線の強くあたっている領域です)

強度変調放射線治療 (IMRT)

強度変調放射線治療(IMRT)とは、コンピュータ制御により放射線の強さを自在に変えることのできる革新的照射技術で、前立腺がんや脳腫瘍、頭頚部のがんなどでは既にその有用性が知られています。放射線治療による合併症の原因となり得る周囲の正常臓器をうまく避けることができるため、膵がんの治療にこのIMRTを用いれば、従来の方法に比べて副作用を増やさず、もしくは減少させ、かつ高い線量の放射線を腫瘍に当てることが可能となります。 しかし、腹部にある臓器への放射線治療の場合には克服すべき大きな課題があります。それは、ターゲットとする臓器が呼吸の影響で常に動きを伴っていることです。IMRTのような複雑な照射を行う場合には、呼吸によって臓器の位置が変わることで大きな誤差を招いてしまう可能性があります。 当院では、この呼吸性移動を伴う膵がんに最適な治療方法の開発を行ってきました。まず我々は、呼吸運動による腹部臓器の動きを解析し、息を吐いた状態(呼気)で十数秒間の息止めを行なうことで、最も安定した位置精度が確保できることを確認しました。 呼吸の動きをモニターしながら、安定した状態で照射を行うことのできる呼吸同期システムを導入し、膵がんに対するIMRTに応用しました(呼気息止めIMRT)。この方法により、副作用を最小限に抑えよりたくさんの放射線を確実に腫瘍へ当てることが可能となったことが、当院で施行した臨床試験(第I相試験、2011~2013年)により確認されました。

   

左は水平断層像、右は矢状断層像:胃や十二指腸等の腸管や腎臓を避けて、腫瘍とその周囲(浸潤範囲)のみに、より選択的に放射線を照射することができます。これにより従来の方法では不可能だった高い放射線量で治療することが可能になりました。

上段は治療前、下段は治療後:IMRTを用いて化学放射線療法を行なった方のCT画像です。血管を巻き込むように存在していた腫瘍が、治療前に比べて著明に縮小しています。