京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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乳房温存療法

乳房温存療法とは具体的にはどのような治療法なのでしょうか?

乳房温存療法は、乳房温存手術と術後の放射線療法、そして全身的な補助療法(化学療法・ホルモン療法)からなります。

乳房温存療法の根底にあるのは 「乳腺内の目で見える、手で触れる病巣だけを乳房温存手術で切り取る」 「詳細な病理検査で大きな取り残しのないことを確かめる」 「細胞レベルで取り残した可能性のある病巣は放射線治療で根絶する」 「乳房以外に存在しているかも知れない微小転移巣は化学療法・ホルモン療法で根絶する」 という考え方です。

乳房温存手術

乳房温存手術では手術中確認される乳がんのしこりから安全域をとって切除します。 乳房の手術に加えて、わきの下のリンパ節を摘出します(腋窩リンパ節郭清)。摘出したリンパ節のうちいくつにがんの転移があったかということは最も重要な予後因子です。ただし、最近では、しこりに色素や放射性同位元素(RI)を注射して、最も近いリンパ節を同定し、その部位のみ切除して調べるセンチネルリンパ節生検を行い、がん細胞がなければ腋窩リンパ節郭清を省略することもあります。

乳房温存手術後放射線治療

乳房温存手術後、約2週間~2ヶ月の間で、傷もふさがり腕を挙げることも可能になった時点で放射線治療を開始します。放射線治療の標的はがんのあった側の乳房で、他には放射線はあたりません。したがって髪の毛が抜けたりすることはありません。腋窩リンパ節郭清の結果、リンパ節転移があった場合は、がんのあった側のくびの付け根のリンパ節(鎖骨上リンパ節)も含めて照射することもあります。 放射線治療の回数(線量)は通常分割法では25回(50グレイ)あるいは30回(60グレイ)で、手術標本を顕微鏡で検査した結果により決まります。最近では、放射線治療の期間を16-20回(3-4週間)に短縮し、その代わり1回あたりの線量を少し増加させて行う寡分割 (短期照射)法で治療することも多くなってきました。副作用や治療効果が通常分割法と同等であることから、いずれの方法も標準治療となっています。

全身的な補助療法

手術標本の検査(病理組織学的、免疫組織化学的)により、化学療法・ホルモン療法・分子標的治療などが行われます。

どうして乳房を温存することが可能になったのでしょうか?

以前は「乳がんは局所の病気であり、がんを含む乳腺組織と周辺のリンパ節を完全に取り除けば治癒する」と考えられていました。この考えをもとに乳房切除術(ハルステッドの手術あるいは非定型乳切術)が行われてきましたが、その後の研究で乳がんの全身病としての性質がクローズアップされるようになり、局所の治療は生命予後に関係しないことがわかってきました。言い換えれば乳房を取るか残すかということと、乳がんが治る、治らない、ということは直接関係がないことがわかってきたのです。このことはすでに欧米での多くの臨床試験の結果から証明されており、現在では乳房温存療法は早期乳がんに対する標準治療法となっています。

放射線治療は必ず受けなければならないのでしょうか?

欧米の研究では乳房温存手術後10年での乳房内の再発は、放射線治療を行った場合約8%であるのに対し、行わなかった場合約25%に達することが知られています。我が国でも厚生省小山班の研究では、放射線治療を行わなかった場合、乳房内の再発が増えることが示されています。我が国では手術標本を顕微鏡で調べて、がんがすべて取りきれていた場合、放射線治療を行わない施設もありますが、乳がんは一つの乳房内に多発したり、乳管を伝って網の目のように拡がってゆく場合があり、手術で取りきれたかどうかの判断が難しい場合が多いのです。以上のような事実をふまえて京都大学では現在浸潤がんの全例で放射線治療を行っています。

放射線治療を受けなくても再発しない人がいるはずですが?

乳房温存手術後放射線治療を行わないと10年で約25%に乳房内再発があると書きました。逆に言えば計算上は約75%の患者さんは放射線治療を受けなくても 乳房内再発がないことになります。そのような患者さんを前もって見つけることができれば、その患者さんは放射線治療を受けなくてもよいことになります。
ただし残念ながら、今のところそのような放射線治療を受けなくても乳房内再発を来たさない患者さんを見つけだすための方法は確立されていません。
乳がんの局所再発を抑えるという利益(benefit)は放射線治療にともなう通院の手間や経費、副作用などの代償(cost)を上回ると考えられています。

放射線治療の副作用が心配です

放射線治療の副作用には急性反応(治療中から治療終了後)と晩期反応があります。いずれも大変個人差が大きく、ここに挙げた症状が全く出ない患者さんもいれば、2つ以上が出る患者さんもいます。

急性反応
治療中から見られるが1か月位で治ります
晩期反応
治療後6か月から2年でおこり、
一般に治りにくいです
皮膚の陽灼けのような発赤
皮膚の知覚過敏(ヒリヒリする)
皮膚ががさがさになり、黒くなる
皮膚がジクジクしたり水ぶくれになる
皮膚の色素沈着・色素脱失
乳腺が縮んだり硬くなる
咳・発熱をともなう
放射線肺炎(まれ)
肋骨骨折(きわめてまれ)