即時適応放射線治療
即時適応放射線治療
(Online adaptive radiotherapy; oART)
2024年現在,世界中で広く行われている放射線治療は,診察・治療戦略決定,治療計画CT撮像,治療計画作成,独立検証という流れで,一般的に照射開始の1~2週間前に行われます.照射日当日は患者セットアップ,位置確認用の画像撮像,位置ずれ補正,照射という流れで実施されます.このとき使用される治療計画は,1~2週間前に事前に作成されたものを使用します.すなわち,毎照射日においては位置確認用の画像を用いて,腫瘍や周囲の正常臓器の治療計画CTからのずれを平行移動や回転で修正しているのみで,それぞれの形状変化は考慮されておりません.放射線治療期間中に生じる変化としては,腫瘍の形状変化,体重変化・体輪郭変化,臓器の変形などがあります.位置ずれだけでなく,これらの変動を考慮し対策を行う放射線治療を総称して,適応放射線治療(Adaptive radiotherapy; ART)とよびます.特に毎回の照射の際に画像を撮像し,患者さんが寝台の上で寝ている状態で,その画像を基にその日の体内の腫瘍や周囲の正常臓器の位置・形状を考慮して迅速に治療計画を行い治療することを,即時適応放射線治療(Online adaptive radiotherapy; oART)とよびます.
当院では,即時適応放射線治療が可能な治療システムであるEthosを保有しております.Ethosの特徴は「治療設備紹介」や「画像誘導放射線治療」の頁をご参照ください.Ethosでは,その日の新しい治療計画用の画像としてコーンビームCTを利用します.治療当日は,寝台の上に寝たあとまずコーンビームCTを撮像します.コーンビームCTは,即時適応放射線治療ではない通常の高精度治療においても,位置ずれの補正に利用される画像です.その画像には腫瘍とその周囲の正常臓器が写っており,それぞれの位置関係や形状が容易にわかります.コーンビームCTを撮影した後は,医師が腫瘍および周囲の正常臓器の輪郭を描画します.当日の腫瘍および周囲の正常臓器の輪郭が描画できると,その形に合わせて腫瘍には放射線を当てて周囲の正常臓器には不要な放射線を当てないような計画を自動で立てます.計画が完成したら医師による確認後,実際の照射になります.その間患者さんは寝台の上でそのままの体勢で待機していただきます.コーンビームCT撮像から治療計画・照射までは約5~20分程度です.
即時適応放射線治療は,腫瘍の大きさや体の輪郭が日々変化していく場合や,周囲の正常臓器の位置・形状が日々変化する部位で特に有用です.例えば,頭頚部の治療の場合,体重減少などにより体の輪郭が小さくなっていきます.その変化に対応せず事前に作成した治療計画で治療し続けた場合,放射線が相対的に過剰に照射される可能性があります.上腹部の治療の場合,胃や十二指腸,小腸,大腸といった臓器があります.これら臓器は食事の量やタイミング,消化の具合によって日々の位置や形状が大きく変わります.またその変化は一定の規則があるわけではなく,ランダムに起こります.即時適応放射線治療ならば,毎回の治療時に画像を撮像して腫瘍と周囲の正常臓器の位置・形状を把握し,その日に体内の状態に最適な治療計画を作成することが可能です.当院では,上腹部や骨盤部で主に即時適応放射線治療を行っております.症例によっては胸部や頭頚部でも実施しています.