京都大学医学部附属病院 放射線治療科

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前立腺がん

前立腺がんに対する放射線治療(外部照射)

前立腺は膀胱の出口に存在する精液の一部となる液体を産生する腺組織です。前立腺のがんは、従来は欧米の高齢男性に多く発生するとされてきましたが、近年日本でも急速に増加しており、その死亡数増加率は日本人男性のすべてのがんの中で最も高いものとなっています。今後、さらなる高齢化・食生活の欧米化・PSA検査による発見率の上昇などに伴って、患者数が増加すると考えられています。

前立腺がんの病期分類と治療選択肢

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B期は前立腺被膜内にとどまるがんです。外科手術、外部照射、小線源治療の3者の治療成績は同等であるとされています。ただし、腫瘍の拡がり以外のリスク因子であるPSA値や病理組織像(グリーソンスコア)から、各治療方法の適応が限られる場合があります。小線源療法単独治療は、リスク分類で低?中リスクの場合までが適応となります。また、外部照射はBからC期までを幅広くカバーしますが、三次元原体照射による一定線量(70-74Gy)以上の高い放射線投与が必要です。

C期のがんは腫瘍が被膜をやぶって前立腺外に進展しています。この場合は、外科手術やインプラント単独での治療成績は芳しくなく、ホルモン療法併用の外部照射が最も有効な治療とされています。

D期は、原則的には内分泌療法、化学療法による全身治療法の適用となります。(骨盤リンパ節転移にとどまるD1期では全骨盤照射を含む放射線治療を行う場合があります。)

京都大学における治療方針

A,B期: 外科手術(原則75歳以下)
放射線治療(治療前に内分泌治療を6ヶ月程度併用)
京都大学では前立腺がんに対しての小線源療法は行っていません。
C期: 放射線治療(治療前に内分泌治療を6ヶ月程度併用)
D期: 内分泌療法(場合によっては内分泌療法併用放射線治療)
外科手術

前立腺全摘除術:後恥骨式前立腺全摘術または体腔鏡下前立腺全摘除術術後の性機能障害対策として神経移植術も試みられています。

放射線治療(現プロトコール:2011年5月現在)

外部照射:B期からC期は原則として、強度変調放射線治療(70~78Gy)による根治的外部照射を施行しております。2010年の前立腺癌根治照射実績は108人でありそのうち101名はIMRTで加療いたしました。(既にホルモン療法抵抗性となり治療を急ぐ方や全骨盤照射の併用が必要な方は三次元原体照射で加療しております。)

京都大学では、国内屈指のIMRT施行件数を誇りますが、IMRT希望者の急増のため、外来受診から放射線治療開始まで半年強の待機時間が必要であるのが現状です。もっとも、治療成績改善ならびに合併症の軽減のメリットがあるために半年間の短期ホルモン療法をIMRT開始前に併用いたしますので、無治療で当院受診の方につきましては上記待機期間がほぼホルモン療法期間に相当いたします。
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京都大学における治療成績

京都大学では、1997年より三次元原体照射による根治的外部照射(処方線量:70Gy)を開始し良好な成績をあげてきましたが、IMRTではさらに良好な治療成績を達成いたしております。2003年からのIMRTプロトコールにより加療した145例(経過観察期間中央値:5.8年)の5年PSA非再発率(Phoenix定義)は、B期(中・高リスク)、C期がそれぞれ:85%、69%、5年全生存率は、B期:95%、C期:95%と極めて良好です。

放射線治療に伴う合併症 (京都大学における実績)

急性期合併症(照射中~照射後3ヶ月)

通常は治療終了後1-2か月で回復しますので、適宜内服薬や座薬を用いて症状を抑えれば心配要りません。

頻尿・尿勢低下 70%
頻便・排便時痛 20%
排便時出血 13%
晩期合併症(照射終了後6ヶ月以降)

頻度は低いのですが一旦起こると難治性の場合が少なくありません。

直腸出血 (薬物治療を要するもの) 6.3%
排尿困難・膀胱出血(治療を要するもの) 7.3%

これらの合併症のうち3度以上の重篤なものは2-3%以下であり安全性の高い治療です。 尚、症状の程度には個人差があり、その他の予測できない事象が発生する可能性があります。

(本説明に記載の事項は、2011年5月現在の知見や治療成績に基づいて記載されており、将来にわたり内容を保証するものではありません。)