定位放射線治療
定位放射線治療(脳)
脳腫瘍に対する定位放射線治療
定位放射線治療とは?
高い精度で、病変の形状に一致させて放射線を集中して照射する治療方法です。X線を3次元的に色々な方向から照射することにより、周囲の正常組織に対する被ばくを極力抑えることができます。これにより、正常脳組織への障害を低減しながら病変そのものをしっかり治療することが可能になりました。治療は病変の種類、部位、症状によって一回照射もしくは数回~数十回の分割照射で行います。オーダーメイドのマスクを用いて固定するため非侵襲的で痛みなどの苦痛を伴いません。状態に特に問題なければ外来で行うこともできます。また、手術が困難な部位に存在する病変に対しても治療が可能です。
対象疾患
原発性脳腫瘍(悪性、良性)や転移性脳腫瘍(脳転移)などが対象です。近年では回転型強度変調放射線治療(VMAT: Volumetric-modulated Arc Therapy)を組み合わせることで、大きな病変や多発病変、視神経等の重要な正常組織が近接する病変の治療も可能となりました。
当院では2015 年 10 月より多発病変に対して単一の回転中心を用いた定位放射線治療を実施しています。病変を1つずつ治療する従来法と比べ、高い照射精度で短時間に多発病変を一度に治療することができます。多発脳転移の場合、全脳照射と比べ、認知機能低下のリスクを軽減し高い局所制御率を得られるようになりました。
多発脳転移腫瘍に対する治療計画画像・線量分布図
治療の流れ
治療の準備
毎回の治療で病変位置を再現するための固定具(マスク)の作成と治療計画用のCTを撮影します。京都大学では、画像誘導放射線治療専用機であるTrueBeamSTx、Vero4DRTを用いることにより、苦痛のあるピン固定は必要なく、オーダーメイドのマスクを用いた痛みのないマスク固定法を採用しています。マスク固定法を用いることによりでピン固定とほぼ同等の高精度の治療が可能となります。
マスク固定の図
治療計画
マスク装着下の治療体位で撮影されたCT画像上で、病変部位や周囲正常組織を正確に同定し、危険臓器を避け病巣のみに高線量を照射できる最適な照射プランを作成します。このとき治療計画装置上のイメージフュージョン機能によりCTとMRIを重ね合わせ、CTでは描出困難な病巣の広がりをMRIで評価し治療計画に反映させます。
治療計画画像・ビーム配置・線量分布図
放射線照射
マスクを装着し、治療計画用CT撮影時と同じ治療体位を再現します。画像誘導放射線治療機能は、2方向の位置決め用X線撮影装置によるステレオ撮影によって、0.1mm、0.1°単位でずれ(3軸平行移動誤差・3軸回転誤差)を自動計算・自動補正することにより、高い精度で放射線を迅速に照射可能です。放射線を照射する時間は1~2分、治療室にいる時間は15分程度です。
TrueBeam STx(左) Vero4DRT(右) (各々2方向のX線撮影により位置補正が可能)
定位放射線治療(肺)
体幹部定位放射線治療(Stereotactic Body Radiation Therapy; SBRT)は、下記の疾患が保険適応となっています(2020年現在4月現在)。
- 直径が5 cm以内で,かつ転移のない原発性肺癌、原発性肝癌または原発性腎癌
- 3 個以内で,かつ他病巣のない転移性肺癌または転移性肝癌
- 転移病巣のない限局性の前立腺癌又は膵癌
- 直径5 cm以下の転移性脊椎腫瘍
- 5個以内のオリゴ転移病変
- 脊髄動静脈奇形
本項目では、肺癌に対する定位放射線治療について説明しています。
治療をうけられる条件として、病変部位が正常臓器に近接していないこと、活動性の間質性肺炎を有しないこと、腕を上げた状態で30分以上の安静保持が可能であることなどがあります。定位放射線治療が適しているかどうかは、診察した上で判断します。
治療準備
治療実施に先立ち下記のような準備を行います。
固定具作成
毎回の治療で病変位置を正確に再現するために各患者さん専用の固定具を作成します。固定具と言ってもピンやベルトで固定するわけではなく、体を広く包み込むようなクッションのような物です。固定具と体の位置関係を再現するために、皮膚面にはマーキングを行います。
呼吸性移動の評価
腫瘍は呼吸に伴って移動し、部位によっては10mm以上移動します。これをX線透視で観察し、その移動量・移動方向を評価します。呼吸性移動が大きい場合には、呼吸性移動対策を行っており、当院では、腹部圧迫法(腹部を圧迫することで、呼吸の大きさを制限する方法)、呼吸同期照射(腫瘍が特定の範囲を動いている間だけ、照射を行う方法)や動体追尾放射線治療などがあり、各患者さんに最適な方法で治療を行っております。
CT撮影
病変部位や周囲正常組織を三次元的に正確に同定するためにCTを撮影します。また、上述の呼吸性移動評価を補助する目的で四次元CTの撮影も行います。
治療の実際
数日の検証を経て、実際の治療に移ります。
体位再現
固定具の上に寝ていただき体の位置を再現します。その後X線撮影を行い、病変部位を正確に捉えられていることを確認します。
放射線照射
病変と正常組織の位置関係により、治療回数は決定します。原則的に、末梢性の場合は4回、中枢性の場合は8回または16回で治療を行なっています。
1回あたりの治療時間は約15-20分です。
治療成績
効果
当院では1998年より900症例以上の肺腫瘍に対して定位放射線治療を行っております。
原発性肺癌
・1998年〜2014年
中心線量48グレイ/4回の定位放射線治療を行った末梢性原発性肺がん(3cm以下)216例、230病変の症例の検討では5年の局所制御率81%、全生存率51%という治療成績でした(2018年新谷、Int J Radiat Oncol Biol Phys誌)。
・2014年2月以降
諸外国の照射線量や治療成績と比較し、本邦での照射線量が小さく局所制御率もやや低いことが問題でした。近年の放射線治療技術の発達により、腫瘍へは高い線量を投与しつつ、肺や食道などの正常臓器は従来照射法と同程度以下の照射線量に抑えることが可能になりました。
当院では、2014年2月以降より、照射線量を従来の腫瘍中心線量48グレイ/4回から腫瘍中心線量70グレイ/4回(腫瘍全体に50グレイ/4回)へと増加し、線量集中性を高めた放射線治療を行っています。
2021年12月現在、400症例以上の患者さんをこの照射法で治療しています。肺障害などの有害事象は従来照射法と比較し同程度以下、腫瘍の局所制御割合はさらに向上しており、治療成績は2年局所制御割合96%、全生存割合は85%でした(2018年光吉、Clin Lung Cancer誌)。一方で、本邦での肺癌手術例は、臨床病期IA期、IB期、II期で、5年生存割合がそれぞれ75~92%、72%、58~60%と非常に優れた成績が報告されています(2019年 Okamiら、J Thorac Oncol誌)。定位放射線治療の対象は、手術のリスクが高い、または手術を希望しない患者さんとなっているため、高齢の方や併存疾患がある方がほとんどです。そのため、手術と定位放射線治療の成績を直接の比較することは困難です。しかし、定位放射線治療は、高齢の患者さんや手術のリスクが高い患者さんでも安心して受けることができる、安全かつ治療効果の高い治療法のひとつです。
転移性肺癌
当院において、肺転移に対して定位放射線治療を行った場合の2年の局所制御割合は90%と優れた成績です(2008年 則久ら、Int J Radiat Oncol Biol Phys誌)。近年、オリゴ転移(一部の限局した臓器に少数個のみの腫瘍がある状態)という概念が提唱され、オリゴ転移の転移性肺癌に対しても手術や定位放射線治療などの局所治療を行うことで、腫瘍を根治できる可能性が期待されています。
副作用
肺への定位放射線治療後の副作用としてもっとも懸念されるのは放射線肺臓炎です。現在までのデータでは、治療を必要とする放射線性肺臓炎の発症割合は7%でした。そのうち、致死的な肺臓炎となったのは1%未満です。肺以外の合併症として、皮膚炎、肋骨骨折、肋間神経痛などがありますが軽度にとどまっており、一般的な放射線治療における副作用と同じレベルとしてよいと考えます。なお、当院では経験がありませんが、致死的な肺出血や食道潰瘍の報告もなされており、病変が危険臓器(心臓・大血管、気管、食道など)に近い場合には定位放射線治療を実施できないことがあります。